東京地方裁判所 平成3年(ワ)10687号 判決 1998年10月07日
原告
株式会社興研
右代表者代表取締役
松本袈裟文
右訴訟代理人弁護士
小柴文男
同
井坂光明
右補佐人弁理士
千葉太一
被告
株式会社辰巳菱機
右代表者代表取締役
近藤豊嗣
右訴訟代理人弁護士
影山光太郎
同
道端慶二郎
同
目々澤富子
右補佐人弁理士
伊藤儀一郎
主文
一 被告は、原告に対し、金二〇六万円及びこれに対する平成三年八月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、別紙物件目録(一)記載の負荷装置システムを製造、使用してはならない。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、これを三分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
五 この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金二七二万円及びこれに対する平成三年八月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告は、別紙物件目録(一)及び(二)記載の負荷装置システムを製造、使用してはならない。
3 被告は、その所有する別紙物件目録(二)記載の負荷装置システムを廃棄せよ。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 1ないし3について仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告の特許権
原告は、次の特許権(以下「本件特許権甲、乙」といい、その発明を「本件発明甲、本件発明乙」という。)を有している。
(一) 本件特許権甲
発明の名称 負荷装置システム
出願日 昭和六〇年一一月二六日
出願公告日 昭和六三年三月八日
登録日 昭和六三年一〇月一四日
登録番号 第一四六二四二三号
特許請求の範囲 別紙一の「特許出願公告公報」写しの該当欄記載のとおり
(二) 本件特許権乙
発明の名称 水抵抗器
出願日 昭和六〇年一一月二〇日
出願公告日 平成元年九月二〇日
登録日 平成二年五月一六日
登録番号 第一五五九二〇三号
特許請求の範囲 別紙二の「特許出願公告公報」写しの該当欄記載のとおり
2 本件発明の構成要件
(一) 本件発明甲の構成要件は、次のとおりである。
(1) (別紙物件目録(一)記載の負荷装置システム(以下「本件装置イ」という。)との対比の関係での主張)
A 水を流入排出しつつ内部に所定の水を貯留する有底円筒形ベース電極の底部中央に、外出下端に電源装置の出力ケーブルを接続する円筒形主電極を絶縁状態で貫植した水抵抗器と、
B 前記水抵抗器より排出される温水を導入し内部を通過させた後前記水抵抗器に供給するラジエターと、
C 前記ラジエターに水をスプレー噴射し、このスプレー噴射させた水の蒸発潜熱にてラジエター内部の温水を冷却するスプレー管と、
D 前記ラジエターの表面を風冷しそこから発生する蒸気を送り出し空間に拡散せしめるファンと、
E ガラリとを配設した電極水冷却処理装置と、
F からなる負荷装置システム
(2) (別紙物件目録(二)記載の負荷装置システム(以下「本件装置ロA」、「本件装置ロB」といい、両者をまとめて「本件装置ロ」という。)との対比の関係での主張)
A' 水を流入排出しつつ内部に所定の水を貯留する有底円筒形ベース電極
B' 前記有底円筒形ベース電極の底部中央に、外出下端に電源装置の出力ケーブルを接続する円筒形主電極を絶縁状態で貫植した
C' 前記有底円筒形ベース電極及び前記円筒形主電極から構成される水抵抗器
D' 前記水抵抗器より排出される温水を導入し内部を通過させた後前記水抵抗器に供給するラジエター
E' 前記ラジエターに水をスプレー噴射し、このスプレー噴射させた水の蒸発潜熱にてラジエター内部の温水を冷却するスプレー管
F' 前記ラジエターの表面を風冷しそこから発生する蒸気を送り出し空間に拡散せしめるファン
G' ガラリ
H' 前記ラジエターと前記スプレー管と前記ファンと前記ガラリとを配設した電極水冷却処理装置
I' 前記水抵抗器と前記電極水冷却処理装置とからなる負荷装置システム
(二) 本件発明乙の構成要件は、次のとおりである。
a 給水孔と排水孔を開口した内部に所定量の水を貯蔵する有底円筒形のべース電極
b ベース電極の底部中央に貫着した絶縁体を貫通して立設しその外出下端に電源装置の出力ケーブルを接続する円筒形の主電極
c 主電極の露出長を調整すべく昇降動自在に吊設され前記主電極を覆う絶縁鞘筒
d 前記有底円筒形のべース電極と前記主電極と前記絶縁鞘筒とからなる水抵抗器
3 本件発明の作用効果
(一) 本件発明甲は、前記構成をとることにより、①従来のように縦横三メートル、深さ二メートル程度の大きな水槽の中に電極を浸して水抵抗器を構成する必要がなくなり、このため取扱いが容易でコンパクトな構造となり、②電極が円筒形状であるため、安全性及び作業性に優れ、③ラジエター、スプレー管、ファン及びガラリからなる電極水冷却処理装置が備わっているため、温まった水を排水しつつ冷たい水を供給して水槽内の水を一定温度以下に押さえるという従来の冷却方式と全く異なり、大量の水を必要とせずかつ大量の温排水を出さないという省資源型で無公害型の負荷装置システムを得ることができる。
(二) 本件発明乙は、前記構成をとることにより、右(一)①②記載のとおりの作用効果を有する。
4 被告の行為
被告は、少なくとも昭和六三年一〇月一四日から平成二年二月まで約一七ヶ月の間、業として、本件装置イを製造、使用した。
また、被告は、平成三年九月ころから、業として、本件装置ロA、ロBを製造、使用している。
なお、本件装置ロBは、ラジエター、スプレー管、ファン、水受けフードがそれぞれ二個ずつ配設されている点、及び水受けフードに仕切り板が設けられている点が、本件装置ロAと異なるのみである。
5 本件発明甲と本件装置イの対比
(一) 本件装置イは、本件発明甲の構成要件を全て充足し、本件発明甲の技術的範囲に属する。つまり、本件装置イの構成①、②は構成要件Aに、同③は構成要件Bに、同④は構成要件Cに、同⑤は構成要件Dに、同⑥は、構成要件Eに、同⑦は、構成要件Fに、それぞれ該当する。
(二) なお、本件装置イは、三本の絶縁鞘筒を有するが、これは、本件発明甲の構成に対しては負荷容量の調整という付加的な意味を有するに過ぎないから、構成要件充足性に影響しない。
分水槽、基台集水槽が付加されていることも、構成要件充足性に影響しない。
6 本件発明甲と本件装置ロの対比
(一) 文言侵害
(1) 本件装置ロは、本件発明甲の構成要件を全て充足し、本件発明甲の技術的範囲に属する。(以下、物件目録(二)記載の本件装置ロA、ロBの共通の構成を、単に「本件装置ロの構成1」というように表現する。)
(2) 構成要件A'について
本件装置ロの構成1は、水を流入排出しつつその内部に所定の水を貯留し、また、後記の円筒形主電極と対をなして水抵抗器の電極を構成するものであり、本件発明甲の構成要件A'を充足する。
本件装置ロでは、分水槽、流量調節バルブ、絶縁チューブ及び給水管を介してベース電極内部に水を流入するという機構を採用しているが、かかる機構は、ベース電極内部に水を流入するという具体的手段の問題であり、ベース電極としての右構成を左右するものではない。また、本件装置ロの有底形ベース電極の上端縁には受け部材が設けられているが、これも単なる付加物である。
(3) 構成要件B'について
本件装置ロの構成2は、構成要件B'を充足する。両者は、円筒形のべース電極の軸心に当該主電極が固定され、ベース電極と共に対をなして水抵抗器を構成するという機能において全く同一である。
構成要件の「底部」とは、円筒の二つの平面による断面部分を意味し、その語義自体からして円筒の上部、下部を問わないので、「底部中央」とは、円筒形のべース電極の、上部、下部を問わない断面部分の中央を指す。構成要件の「外出」とは、ベース電極から外部に突き出たという意味であるから、「外出下端」とは、この外部に突き出た部分で、そこに出力ケーブルが接続されるところを意味する。
(4) 構成要件C'について
本件装置ロの構成3は、構成要件C'を充足する。
本件装置ロが備える「絶縁鞘筒」は、水抵抗器の抵抗値を調整するための機構であって、水抵抗器本来の機構からすれば付加的なものである。
(5) 構成要件D'ないしF'について
本件装置ロの構成4ないし6は、それぞれ構成要件D'ないしF'を充足する。
(6) 構成要件G'について
本件装置ロの構成7の「ガラリ」は、構成要件G'を充足する。
この「ガラリ」の要件は、ファンによってスプレー管から噴射された霧やラジエター表面で蒸発した水蒸気が周囲に飛散するのを防ぐためのものである。ガラリとは、傾斜した板によって気体をその方向に放出する機構をいい、板は通常複数設けられるが、板が本件装置ロのように一枚になったものも、その機能において何ら変わりがない。
(7) 構成要件H'について
本件装置ロの構成7の「電極水冷却処理装置」は、構成要件H'を充足する。
(8) 構成要件I'について
本件装置ロの構成の「負荷装置システム」は、構成要件I'を充足する。
(9) 本件装置ロの構成8について
本件装置ロの構成8の「回収水槽」は、水受けフードの下方に集まって落ちてくる水を回収し、その回収された水をスプレー用の水として再利用することを可能にする機構である。したがって、本件発明甲に付加的な機能を加えるに過ぎず、構成要件該当性の判断には影響しない。
(10) 本件装置ロの「予備電極」について
本件装置ロには、運転中電源装置の出力ケーブルと接続されない一対の電極が予備として設けられている。しかし、この予備電極は、本件発明甲の負荷装置システムにとって付加的な機能を果たすものに過ぎず、構成要件該当性の判断には影響しない。
(二) 均等論
(1) 仮に、本件装置ロが、本件発明甲の構成要件B'(円筒形主電極)及び構成要件G'(ガラリ)を充足しないとしても、次の理由により、これらは本件発明甲と均等である。
(2) 本件装置ロは、本件発明甲と同一の技術的課題、技術的思想及び中核的作用効果を有する。
本件発明甲の技術的課題、技術的思想及び中核的作用効果は、円筒形ベース電極と円筒形主電極と円筒形ベース電極内に貯留される水とから水抵抗器を構成すると共に、右円筒形ベース電極内に貯留される水を循環させ冷却しながら繰り返し使用するという構成を採用することによって、①この種の負荷装置システムとしては従来は全く考えられないほどコンパクトな構成を実現し、②運転時の作業性と安全性を飛躍的に向上させ、③節水省資源型にして無公害型の装置を実現することである。
なお、本件発明甲は、右顕著な作用効果が当業界の技術レベルを飛躍的に向上させ産業に多大な貢献をしたという理由で、平成七年四月に科学技術庁長官賞を受けた。
これに対し、本件装置ロは、本件発明甲の構成要件B'(円筒形主電極)及び構成要件G'(ガラリ)以外の構成においては、本件発明甲と同一である。右円筒形主電極については、本件装置ロは、円筒形のべース電極の軸心に主電極が固定され、ベース電極と共に対をなして水抵抗器を構成することにより、電極間の電位分布を平準化してアーク放電を発生しにくくすると共に、ベース電極の抵抗水の容器としての機能をも持たせることにより装置の小型化を実現するという作用効果を有する。
また、右ガラリについては、本件装置ロは、送り出された霧や水蒸気の進行方向に対して傾斜角を持って板を設けるという構成を採用することにより、ファンによって送り出されたスプレー管から噴射された霧やラジエター表面で蒸発した水蒸気を前記傾斜方向に偏向させて、これらが周囲に飛散するのを防ぐという作用効果を有する。
なお、本件装置ロには、本件発明甲にはない構成部分である絶縁鞘筒及び予備電極が備わっているが、これらの存在により右本件発明甲の中核的作用効果に比較して格別の技術的意義を有する顕著な作用効果が生まれるものではないから、前記議論に影響しない。
(3) 一部に異なる構成を採用することにより新たに顕著な効果を奏することはない。
ア 円筒形主電極についての相違は、下付き構造か、上付き構造かの点である。
被告は、上付き構造にすることにより、①水漏れによる感電事故がなくなり、②部品点数が減少し、③水を抜かずに主電極の交換が楽にできる、という本件発明甲にない優れた作用効果を有する(なお、主電極の下端が集水槽の底面と離間しているのは、右③に関連して主電極の交換を容易にするためである。)旨主張する。
しかし、①については、下付き構造だから水漏れによる感電事故が生じるわけではない。水漏れが生じるだけでは感電は起こらず、感電が起きるのは、漏れた水により高圧部と人体と設置部との間に閉回路を構成する場合に限られる。実際にも、そのような事実はない。主電極がベース電極底面を碍子等の絶縁物を介して貫通するときに、碍子とべース電極底面との間、及び碍子と主電極との間に、それぞれ周知慣用のゴム製パッキングやOリング等を設けるという水封技術の常識的手段により、感電は確実に防止される。液体を容器に入れ、当該容器の液体が満たされた部分に穴を開けて外部との間を連絡する部材を設ける例は一般的である。当業界では、主電極を下付き構造で支持する場合は、ブッシングを用いる技術が確立されているから、水漏れの心配はない。
他方、上付き構造でも水漏れに対処する必要はある。また、装置の高い位置で外出端部分に出力ケーブルが接続されるから、これらに人体が接触する危険があるから、かえって感電事故の危険性が高い。
②については、このような効果はない。外出端を電極の重量を保持できるように大きな方形形状としなければならないし、電圧が印加される外出端と装置本体との間の絶縁を確実にする必要があるため、外出端と装置本体との間の碍子を設け、外出端の上部に接続されるチューブを絶縁チューブとしなければならないから、かえって上付き構造にすることにより部品点数が増大する。
③については、主電極の交換は常にする作業ではないし、主電極の交換時には、水の交換をして電解液の濃度を調整する必要があるし、場所を移動する場合には水を抜くのであるから、ほとんど無意味である。また、脱着部品数及び交換に必要な作業スペースを考えると、むしろ上付き構造の方が交換作業が困難である。
イ ガラリとフードの相違について、被告は、フードでは水や水蒸気は絶対にこれを通過しない旨主張する。しかし、フードでも、上方は開放されているので、上方から回り込む水分や一旦上昇して下降する水分はあるし、ガラリもフードも周囲に水分が飛散することを防止するためのものであり、両者に顕著な効果の相違はない。
なお、本件装置ロBでは、フードの内部に仕切り板を設けて構造的にガラリに近いものとなっていることは、右主張を裏付ける。
(4) 構成が異なる部分について、置換が可能である。
ア 円筒形主電極については、電気に上下はないので、水抵抗器特有の作用効果の面において、下付き構造も上付き構造も同一である。
イ ガラリとフードも、水分の飛散防止という作用効果の面において同一である。
(5) 構成が異なる部分について、置換が容易である。
ア 円筒形主電極については、本件装置ロの上付き構造の主電極は、珍しいものではなく、従来例にも、液体抵抗器で主電極を上部で支持固定している例、電動機で回転部に電気を供給するブラシを上から設ける方式と下から設ける方式が適宜使用されている例等があるから、円筒形主電極を下付き構造から上付き構造に置換することは容易である。
主電極を上付き構造にすることは、たとえば一九〇八年出願の英国特許明細書(甲第四三号証)に示されているとおり、何ら新しいものではなく、当業者であれば極めて容易に推考できるものである。
イ ガラリについては、ガラリをフードに置換することが容易であることは、家庭の台所の換気扇や工場の排煙口において、外気と接する開口部をフードで覆うものとガラリで覆うもの(又はガラリを開閉自在にしたシャッター式)とが適宜選択して用いられている例や、ビルやマンションの通気管口にガラリ又はフードが取り付けられている例等多くの従来技術から明らかである。
本件装置ロBに存在する仕切り板は、ガラリの名残というべきものであり、右主張を裏付ける。
(6) 構成が異なる部分は、発明の非本質的部分である。
ア 円筒形主電極については、電気に上下はないから、水抵抗器としての特有の作用効果において、主電極が上付き構造か下付き構造かは全く意味がない。
イ ガラリについては、ガラリとフードは共に、水分の飛散防止という特有の作用効果のために設けられているところ、右作用効果は、本件発明甲の前記中核的作用効果に対して付随的である。
また、ガラリとフードは、単に水分が抜ける間隙が側方に付いていないという点のみが相違し、一定の方向に気体等を導くという点では同一である。
(7) 被告側に社会的非難性又は背信性が存する。
原告代表者は、昭和四九年に原告を設立し、受変電設備の総合試験や発電設備の負荷試験等の業務を行うと共に、水抵抗器や負荷試験装置の研究開発に従事してきた。本件発明甲は、原告代表者が、約二年間にわたり開発に専念して完成させた画期的なものである。
原告が被告を知ったのは、昭和六二年三月ころ被告から負荷試験を受注したことによる。被告は、本件発明甲に係る装置を見てこれを絶賛した。
被告は、原告と同じ年に設立されたが、負荷試験装置に関する研究開発の実績は何もない。
被告代表者は、原告の装置を見て以来、執拗にその売却やその構造の教示を申し入れ、原告も、これに応じて、本件発明甲の原理構造、将来の課題やその解決方法等を説明し、本件発明甲の公開公報などの資料を交付した。
被告は、右資料を入手するや、以前に特許出願を一切行ったことがなかったにもかかわらず、昭和六二年八月に最初の出願をした。もっとも、これは、実施可能性がないものであった。
被告は、昭和六三年二月ころ、原告代表者に対し、展示するのみで勝手に使用しないし、顧客が付けば原告の指示を仰ぐ旨虚偽を述べて、同年三月、本件発明甲に係る原告装置を購入し、その使用等について基本契約を結んだ。
被告は、右装置を密かに分解し実地に使用するなどして、同年一〇月ころまでに、原告装置のデッドコピーである本件装置イを製造し、購入装置と共に営業に使用し始めた。
原告は、被告の無断使用の事実を把握したので、平成元年一月、前記基本契約を解消し、購入装置の返還を求めた。被告は、平成二年七月、右返還をした。更に、原告は、平成元年一〇月ころ、本件装置イの製造使用を知り、直ちに、その製造使用差止仮処分を申し立て、平成二年三月、被告に本件装置イを解体廃棄せしめた。これに対し、被告は、平成元年一〇月には既に、本件装置ロの使用を始めていた。
被告は、前記特許出願等七件の出願を行っているが、これらは、最初の出願以外について審査請求をしていないことから明らかなように、発明と呼ぶに値しないものである。
以上のとおり、被告は、水抵抗器及び負荷試験装置に関する開発を行う者ではない上、不正な手段により特許権者から関連技術情報の開示を受けて、これに基づき本件装置を製造使用しており、背信的な悪意者である。
7 本件発明乙と本件装置ロの対比
(一) 文言侵害
(1) 本件装置ロは、本件発明乙の構成要件を全て充足し、本件発明乙の技術的範囲に属する。
(2) 構成要件a、c、dについて
本件装置ロの構成1は、明らかに構成要件aを充足する。
本件装置ロの構成3は、明らかに構成要件c、dを充足する。
(3) 構成要件bについて
本件装置ロの構成2は、構成要件bを充足する。
本件発明甲は、負荷装置システムとしての技術課題にかかる発明であるのに対し、本件発明乙は、通常本件発明甲のような負荷装置システムなどに組み込まれて使用される水抵抗器としての技術課題にかかる発明であり、異なる技術的課題を持つものである。したがって、本件発明乙の構成要件bは、本件発明甲の構成要件Bとは別途検討する必要がある。
構成要件bは、内部に水を貯蔵する円筒形のべース電極の軸心に当該主電極を電気的に絶縁して固定するものなので、本件装置ロの円筒形主電極はこれを充足する。本件発明乙の「絶縁体」とは、空気を含む概念としてとらえるべきものであるので、このように解することに文言上支障はない。
(4) 本件装置ロのその余の構成について
本件装置ロでは、水抵抗器の他に電極水冷却装置が付加されている。しかし、電極水冷却装置の部分は、本件発明乙にとっては付加的な部分であるから、構成要件該当性に影響しない。
(二) 均等論
(1) 仮に、本件装置ロが、本件発明乙の構成要件b(主電極)を文言上充足しないとしても、これらは、実質的に構成要件を充足するか、本件発明乙と均等である。
(2) 本件装置ロは、本件発明乙と同一の技術的課題、技術的思想及び中核的作用効果を有する。
本件発明乙の技術的課題、技術的思想及び中核的作用効果は、円筒形ベース電極と円筒形主電極と円筒形ベース電極内に貯留される水と上下動自在の絶縁鞘筒とから水抵抗器を構成することにより、水抵抗器としては非常にコンパクトな構成を実現し、運転時における作業性と安全性を向上させ、特に絶縁鞘筒の採用により水抵抗器に負荷を調整する機能を付与することである。
本件装置ロは、構成要件b以外は本件発明乙と同一の構成である。主電極部分の構成は、円筒形ベース電極の軸心に主電極が固定され、ベース電極と共に対をなして水抵抗器を構成することにより(主電極の支持構造を下付きにするか上付きにするかは電極の構成自体としては些末な設計上の問題であって、技術的思想とは無関係である。)、電極間の電位分布を平準化してアーク放電を発生しにくくすると共に、ベース電極の抵抗水の容器としての機能をも持たせるという作用効果を有するから、本件発明乙と同一である。
なお、予備電極は、本件発明乙に対して単に付加的なものに過ぎない。
(3) その余の点については、前記6(二)のとおり。
8 損害
(一) 被告は、本件装置イが本件発明甲の技術的範囲に属することを認識しながら、あえて昭和六三年一〇月一四日から平成二年二月までの約一七ヶ月間、同装置を使用して発電設備の負荷試験業務を請け負い、もって本件特許権甲を侵害した。
(二) 被告は、右期間に、少なくとも一月に二件、合計三四件は右装置を使用した。
被告が使用を自認する以外にも右装置を使用したことは、右装置を被告が密かに製造していた経緯、被告から提出された証拠の不自然性等の事情から明らかである。
(三) 被告は、本件装置イの使用により、次のとおり、少なくとも九六三万八〇八二円の利益を得たものであり、これが原告の損害額と推定される。
右装置の使用料は、通常は一回少なくとも二日間必要なので三五万円であり、例外的に一日の使用の場合は二二万円である。
被告の得た利益は、右売上から右装置及びその搭載車両の減価償却費を控除したものと考えられる。右装置の年間減価償却費は一一一万六〇〇〇円である。搭載車両の年間減価償却費は四四万四九六〇円である。前者については、年間の平均使用日数でこれを除し、使用一日分に対応する減価償却費を計算し、後者については、これを単純に三六五日で除したものを、使用一日分に対応する減価償却費と考えるべきである。
このようにして、一件当たりの利益を、売上から右装置及びその搭載車両の減価償却費を控除して求めると、二八万三四七三円を下らないから、被告は、本件装置イの使用により、少なくとも九六三万八〇八二円の利益を得たものである。
9 結論
よって、原告は、被告に対し、本件各特許権に基づき、本件各装置の製造及び使用の差止め、並びにその所有する本件装置ロの廃棄を求めると共に、不法行為に基く損害賠償の内金として金二七二万円及びこれに対する不法行為の後で、訴状送達の翌日である平成三年八月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(原告の特許権)について
認める。
2 請求原因2(本件発明の構成要件)について
同2(一)(2)及び(二)は認める。
3 請求原因3(本件発明の作用効果)について
同3(一)のうち、①、③の趣旨の記載が特許公報にあることは認め、②についてはそのような記載はないから争う。
同3(二)は、その趣旨の記載が特許公報にあることは認める。
4 請求原因4(被告の行為)について
認める。
5 請求原因5(本件発明甲と本件装置イの対比)について
(一) 否認する。次の理由により、本件装置イは、全く新たな作用効果を有しているから、本件発明甲の技術的範囲に属しない。
(二) 本件装置イは、昇降自在な絶縁鞘筒を備え、これにより消費電力調整及び暴走現象の緊急制御が可能である。これは、安全性の上で不可欠なものである。しかし、本件発明甲の構成には絶縁鞘筒が入っておらず、その効果にも絶縁鞘筒の効果がない。
(三) また、本件装置イには、本件発明甲にはない構成要素である分水槽、基台集水槽が設けられている。これらは、抵抗水(電極水、循環水)のべース電極への出力を制御し、ベース電極間の水温を均等になるように制御しており、本件発明甲における水温の調整等では予期し得ない優れた作用効果をもたらしている。すなわち、本件装置イでは、三相交流の発電機等の出力試験に対処するため、有底円筒形ベース電極が三本ある。そして、各ベース電極に入る電気抵抗体である水の流量を調整して均等に近づけ、各ベース電極内の水温を均等になるようにする必要がある。そのため、基台集水槽によって、三本のべース電極を支え、ベース電極からの水を一系統に集める。また、三本のべース電極に水を配分して供給するために、ベース電極の上方に分水槽を設置する。これらの基台集水槽、分水槽は、ベース電極と一体となって、前記目的のため、循環水の三本のべース電極への出力を制御し、各ベース電極内の水温を均等になるように制御している。
6 請求原因6(本件発明甲と本件装置ロの対比)について
(一) 文言侵害
(1) 否認する。
(2) 構成要件A'について
否認する。本件装置ロは次のような構成を備えているから、構成要件とは異なる。
分水槽、基台集水槽が設けられている。これらは、前記5(三)の作用効果を有する。
給水管の上端に流量調整部材が設けられている。これは、各槽の流量を調整して、各槽間の電気的な負荷バランスを調整するためである。
ベース電極の上端縁に受け部材が設けられている。これは、槽からの溢水を受けて、漏水による感電事故を防ぐためである。
後記(9)のとおりの予備用ベース電極を含め、ベース電極が四本ある。
給水管は、電源装置と主電極を結ぶ導電部材ともなっているため、外面は絶縁被覆されている。
(3) 構成要件B'について
否認する。
構成要件B'の文言によれば、円筒形ベース電極の底部中央から円筒形主電極を貫植した構成でなければ、本件発明甲の技術的範囲に入らない。特に、本件装置ロでは、給水管を支持部材として、ベース電極内に主電極を上方から下方に吊下させている。給水管は、電源装置と主電極とを結ぶ導電部材ともなっている。ベース電極内の主電極下端は明らかにベース電極底面と離間している。このような構成は、構成要件B'と全く異なる。
特許請求の範囲には、「水を流入排出しつつ内部に所定の水を貯留する有底円筒形ベース電極の底部中央」との記載がある。これによれば、原告自らが、円筒形ベース電極は、所定の水を貯留するため有底でなければならず、その円筒形ベース電極の底部中央とは、前記有底部分の底部中央であることを明らかにしているものである。
特に、本件発明甲の特許公告公報の4欄二〇ないし二四行には、実施例の説明として、「本発明の負荷装置システムAを構成する水抵抗器Bは壁側中間部位に給水孔1を又底部に排水孔2を穿設して内部に所定量の水を貯蔵する有底円筒形のベース電極3と当該ベース電極3の底部中央に固定した碍子4を貫通して」と記載されている。そして、説明に対応する図面では、前記排水孔及び碍子はベース電極の有底部すなわちベース電極下部(底部)に設けられている。右記載及び図面によれば、特許請求の範囲に記載されている「底部」と「底部中央」とは、ベース電極の下部を意図して記載されたものであることが明らかである。
「外出下端」における「下端」とは、文字どおり下の端であり、主電極がベース電極を貫いてベース電極より下に出ていることを示す。これに対し、本件装置ロでは、主電極の上端が出力ケーブルと接続されている。
(4) 構成要件C'について
否認する。
本件装置ロは、昇降自在な絶縁鞘筒を備え、これにより消費電力調整及び暴走現象の緊急制御が可能である。これは、安全性の上で不可欠なものである。
(5) 構成要件D'ないしF'について
認める。
(6) 構成要件G'について
否認する。
ガラリと水受けフードは異なる。ガラリでは、スプレー管から噴射された霧やラジエター表面で蒸発した水蒸気が通過できるが、水受けフードでは絶対に通過できない。スプレー管から噴射された霧やラジエター表面で蒸発した水蒸気は、上方に移動しそこから飛散するので、負荷抵抗器の周りに住宅や道路等が接近している状態でも、周りにまき散らされるおそれがない。
(7) 構成要件H'、I'について
認める。
(8) 本件装置ロAの構成8について認める。
(9) 本件装置ロAの「予備電極」について
否認する。
予備電極は、単なる付加的なものでない。これにより、予備、水温、流量の調整の機能を果たしている。つまり、抵抗水(電極水)の温度上昇を抑えることができ、また、通常三基ある各ベース電極間の水温の差をなくすことができる。
(二) 均等論
(1) 否認する。
(2) 本件装置ロは、本件発明甲と次の点が異なり、別個の中核的技術的課題、技術的思想及び中核的作用効果を有するから、別個の発明である。
本件装置ロには、分水槽、流量調整バルブ、絶縁チューブがある。冷却された抵抗用水は、まず分水槽に入る。その後、分水槽から端部に流量調整バルブが取り付けられた絶縁チューブと給水管(いずれも四本に分岐されている。)に水が流入する。流量調整バルブを調整し、特に予備のベース電極に流入される水の流量を調整することにより、抵抗用水の全体的な水温の調整が容易になっている。
本件装置ロには、集水槽がある。集水槽内部と四つのベース電極の内部とは連通しており、各ベース電極内の水は、集水槽内に集められて混合される。特に予備槽の水は通電試験に使用されていないため、冷却されたままの状態で集水槽に集められるので、迅速な水温均一の効果が達成できる。
本件装置ロには、受け部材がある。抵抗用水がたとえ飛び散っても、何らかの原因でベース電極から溢れ出ても、受け部材で受けることができる。
本件装置ロでは、円筒形主電極は、給水管を支持部材として上方からベース電極の軸心方向に沿って下方にまっすぐに固定支持されている。本件発明のように、有底円筒形ベース電極の底部中央に主電極を貫植ないし貫通したものではない。支持部材の内部の空洞をベース電極内に水を流入させる給水管とし、支持部材を主電極に発電器からの電流を流す導電部材として、支持部材と給水管と導電部材を兼ねさせたことにより、部品点数を減少させ、コストの軽減と試験の安全性の向上をもたらした。特に、導電部材として使用するものの内部に水を通すという考えは、到底容易に考えられるものではない。
本件装置ロでは、予備用ベース電極と予備用主電極がある。これらは単に使用中の物が故障したときに緊急に使用する予備のためだけではなく、前記のように、通電試験がされて温度が上昇した抵抗用水の水温を下げ、かつ水温を均一化するための積極的な水溜部の役目を果たしている。
本件装置ロには、昇降自在な絶縁鞘筒がある。これにより消費電力調整及び暴走現象の緊急制御が可能である。これは、安全性の上で不可欠なものである。
(3) 電気に上下はないが、水には上下はある。水には重力が作用するので、容器の下方に穴があいていれば漏れる。本件では、電気の性質と水の性質の両方をいかに利用するかの点に発明思想の要点がある。本件装置ロと本件発明は、水の性質の利用法が異なる。
(4) 被告は、本件装置ロに関連する被告の発明について特許出願をし、日本において特許査定ないし出願公告がされ、アメリカ、台湾、ヨーロッパにおいても特許がされている。このことからも、主電極の下付き構造と上付き構造が置換可能、置換容易でないことが明らかである。
(5) 先行技術を参考にした新たな技術の開発は特許法の目的に適うものであり、被告が原告の発明を参考にして本件装置に関する発明を行ったからといって、何ら社会的非難性ないし背信性が存するとはいえない。
7 請求原因7(本件発明乙と本件装置ロの対比)について
(一) 文言侵害
否認する。次の理由により、構成要件bを充足しない。
本件発明乙では、ベース電極の底部中央に絶縁体を貫着させ、その絶縁体を貫通して主電極を立設し、出力ケーブルは主電極の外出下端に接続される構成となっている。ここで、絶縁体とは、ベース電極底部中央に貫着される以上、個体であることが前提である。したがって、本件装置ロは、これと異なる構成である。
また、「外出下端」における「下端」とは、文字どおり下の端であり、主電極がベース電極を貫いてベース電極より下に出ていることを示す。これに対し、本件装置ロでは、主電極の上端が出力ケーブルと接続されている。
(二) 均等論
前記6(二)と同じ。
8 請求原因8(損害)について
(一) 同8(一)のうち、被告がそのころ本件装置イを使用して発電設備の負荷試験業務を請け負ったことは認め、その余は否認する。
(二) 同8(二)は否認する。被告が本件装置イを使用した件数は、合計七回である。
具体的な使用時、使用先(現場名)は、①昭和六三年一一月、日本移動通信、②平成元年五月、工学院大学、③平成元年七月、雪国まいたけ、④平成元年七月ないし八月、長野ブロイラー、⑤平成元年八月、雪国まいたけ、⑥平成元年八月、自治医科大学、⑦平成元年一二月ないし平成二年一月、マスキである。
右期間ころ、被告は、本件装置イの他、原告から購入した装置を有しており、これを使用することで足りる場合は、専らこれを用いたので、本件装置イの使用件数は少なかった。本件装置イを使用したのは、原告からの購入装置が本件装置イと同時に使用するのでなければ試験用量的に不十分な場合、及び試験が重なって装置が不足した場合のみである。
(三) 同8(三)は否認する。本件装置イの使用により被告が得た利益は、次のとおり、合計三三万五六五一円である。
前記七回の使用のうち、前記⑤の使用日数は一日であり、その余は二日である。
右装置の二日間の使用料は、せいぜい二八万円であり、前記⑤の使用料は、一七万六〇〇〇円となる。
右装置の年間減価償却費を原告が主張する一一一万六〇〇〇円とし、右装置の搭載車両の年間減価償却費を原告が主張する四四万四九六〇円とする。使用一日当たりの減価償却費は、右装置については、その使用頻度は前記約一四ヶ月間に七回だったので、六回を二日使用、一回を一日使用とすると、使用日数は合計一三日となり、一年平均では約一一日となるので、右装置の使用一日分の減価償却費は、一一一万六〇〇〇円を一一日で除した一〇万一四五四円となる。搭載車両の一日分の減価償却費は、原告が主張する一二一九円とする。そうすると、利益から控除すべきである使用一日当たりの減価償却費の合計は、一〇万二六七三円となる。
よって、右装置の使用により被告が得た利益は、前記⑤以外の六件については、一件当たり、売上二八万円から、人件費二日分二万八〇〇〇円、減価償却費二日分二〇万五三四六円を控除した、四万六六五四円となり、前記⑤については、売上一七万六〇〇〇円から、人件費一日分一万七六〇〇円、減価償却費一日分一〇万二六七三円を控除した、五万五七二七円となる。したがって、合計額は、三三万五六五一円となる。
第三 証拠
本件訴訟記録中の書証目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因1ないし4について
1 請求原因1(原告の特許権)、並びに請求原因2(本件発明の構成要件)のうちの(一)(2)及び(二)は、当事者間に争いがなく、請求原因2(一)(1)は被告が明らかに争わないので自白したものと見なす(このような分説も許されるものである。)。
2 成立に争いのない甲第三号証によれば、本件発明甲の明細書の発明の詳細な説明の項には、本件発明甲の効果として、「抵抗器の部分が、組立てに多人数を要していた従来の水抵抗器に比ベコンパクトで据着スペースも取らず、しかも取扱いが簡単で省人化でき、円筒形状のベース電極と主電極からなるのでアーク放電が起こりにくく……一方、電極水冷却処理装置の部分では水抵抗器から排出される温水を冷却し循環使用するため温排水を外部に放出せずに済み、又、蒸発によって温水の冷却を行うため水の蒸発潜熱(五六〇kcal/l)分の熱放散能力を有する。つまり、これは前記の温水放流方式に比べ約一一倍(560/50≒11)の能力であるから、必要な水量は水の飛散損失をみても約1/10で足りることになる。」(7欄二七行から8欄六行まで)との記載があることが認められ、又成立に争いのない甲第四号証によれば、本件発明乙の明細書の発明の詳細な説明の項には、本件発明乙の効果として、「本発明の水抵抗器は温排水を生じない負荷装置システムに使用するものであって、組立てに多人数を要していた従来の水抵抗器に比べ取扱いが簡単で省力化でき、コンパクト設計にして設置スペースを取らず円筒形状のベース電極と主電極からなるのでアーク放電が起こりにくく更に昇降動自在な絶縁鞘筒7を設けたことで消費電力調整及び暴走現象の緊急制動が可能となっているなど安全性、作業性に極めて優れた効果を奏する。」(6欄四三行から7欄八行まで)との記載があることが認められ、本件発明甲及び本件発明乙の各構成に照らし、それぞれその明細書記載のとおりの効果を奏するものと認められる。
3 請求原因4(被告の行為)は当事者間に争いがない。
二 請求原因5(本件発明甲と本件装置イの対比)について
1 本件装置イの構成の①、②によれば、本件装置イは、本件発明甲の構成要件Aを具備するものと認められる。本件装置イにはベース電極が三本あり、それぞれのベース電極内の底部中央に貫着した支持絶縁体に円筒形主電極を貫植している。しかし、水抵抗器は、水を抵抗として利用した抵抗器であり、本件発明甲の構成要件Aの構成のように水を介してベース電極、主電極を配置すれば一個の抵抗が実現されるのであり、しかも、本件発明甲の明細書には、実施例の説明として「水抵抗器Bは第1図乃至第4図中では一つであるが3本1組であり、夫々、主電極6は電源装置が3相の場合各1相を接続し、一方ベース電極3間を相互に接続して接地する。従ってY接続の抵抗器となる。」(4欄二九行から三三行まで)との記載があり、ベース電極と主電極の対が三本で一組となったものが本件発明甲の実施例として開示されており、本件装置イにベース電極と主電極の対が三本あることが本件発明甲の構成要件Aを具備しないことになるものではない。
2 本件装置イの構成③によれば、本件装置イは本件発明甲の構成要件Bを具備することが、同④によれば、本件装置イは本件発明甲の構成要件Cを具備することが、同⑤によれば、本件装置イは本件発明甲の構成要件Dを具備することが、同⑥によれば、本件装置イは本件発明甲の構成要件Eを具備することが、同⑦によれば、本件装置イは本件発明甲の構成要件Fを具備することが、それぞれ認められる。
したがって、本件装置イは、本件発明甲の構成要件を全て充足し、本件発明甲の技術的範囲に属すると認められる。
3 被告は、本件装置イは、昇降自在な絶縁鞘筒を備えることにより、消費電力の調整及び暴走現象の緊急制御が可能であり、また、分水槽、基台集水槽を備えることにより、抵抗水(電極水、循環水)のベース電極への出力を制御し、ベース電極間の水温を均等になるように制御しており、本件発明甲における水温の調整等では予期し得ない優れた作用効果をもたらしており、このように本件発明甲の作用効果とは異なる全く新たな作用効果を有しているから、本件発明甲の技術的範囲に属しない旨を主張する。
しかしながら、本件装置イは、本件発明甲の構成要件を全て具備しているから、本件発明甲と同じ効果を奏するものと認められ、本件装置イが他の構成を付加することにより本件発明甲の作用効果に加えて別個の作用効果を有していることから、本件装置イが本件発明甲の技術的範囲に属さないことになるものではない。
また、前記のとおり、本件発明甲の構成要件Aの構成のように水を介してベース電極と主電極を配置すれば一個の抵抗が実現し、昇降動自在な絶縁鞘筒を具備しなくても抵抗としての基本的な機能を有するのであり、しかも、前記甲第三号証によれば、本件特許権甲の特許請求の範囲第5項(実施態様項)には「主電極は、昇降動自在な絶縁鞘筒にて覆われてなる特許請求の範囲第1項、第2項、第3項又は第4項記載の負荷装置システム。」との記載があり、右特許権の明細書の作用欄には、実施例として示された水抵抗器の作用として、「昇降動自在な絶縁鞘筒7を設けてあるので主電極6の水中での長さを調節し消費電力の調整が自由にできるし、水の温度上昇によってアークが発生する暴走現象が生じた場合、絶縁鞘筒7を主電極6の最下部近くまで下降させることでアークを急速に止める緊急制動の機能も有する」(7欄一二行から一八行まで)との記載があることが認められ、昇降動自在な絶縁鞘筒により消費電力の調整、暴走現象の緊急制動を行うことができるものは、本件発明の実施態様に含まれているものである。したがって、この昇降自在な絶縁鞘筒による作用効果は、本件発明甲の一実施態様の効果として当然予期されたものであって、これにより本件装置イが本件発明甲とは全く別個の発明となるような作用効果ではない。
分水槽、基台集水槽を備えることによると被告が主張する作用効果も、基台集水槽によって、三本のベース電極を支え、ベース電極からの水を一系統に集め、また、三本のベース電極に水を配分して供給するために、ベース電極の上方に分水槽を設置することにより、三本のベース電極に入る電気抵抗体である水の流量を調整して均等に近づけ、各ベース電極内の水温を均等になるようにしているというもので、ベース電極の支持及び三本のベース電極に入る水の流量を均等に近づける調整のための具体的構成に過ぎないから、これにより本件装置イが本件発明甲とは全く別個の発明となるような作用効果ということはできない。
したがって、被告の主張は理由がない。
三 請求原因6(本件発明甲と本件装置ロの対比)について
1(一) 本件装置ロが本件発明甲の構成D'、E'、F'、H'、I'を具備することは当事者間に争いがない。
(二) 本件装置ロが本件発明甲の構成A'を具備するか否か検討する。
本件装置ロの構成1によれば、本件装置ロは、有底円筒形ベース電極を具備し、その有底円筒形ベース電極は、「……を介して水が流入され、これを一方の端部で連通された集水槽を介して排出しつつ内部に所定の水を貯留する」のであるから、本件装置ロは本件発明甲の構成A'を充足する。本件装置ロの構成1及び図面によれば、本件装置ロの有底円筒形ベース電極は、その円筒形の下端に底が形成されているのではなく、下端は、集水槽に接続し開口しているものと認められるが、その集水槽には底があるから、本件装置ロの有底円筒形ベース電極とその下端に接続する集水槽とを合わせたものが本件発明甲の有底円筒形ベース電極に相当すると認められる。本件装置ロの構成1及び図面からみて、本件装置ロの「分水槽」、「集水槽」、「給水管」、「流量調節バルブ」等は有底円筒形ベース電極に水を流入排出するための具体的構成であり、有底円筒形ベース電極の上端縁に設けられた受け部材は付加物にすぎないから、それらの存在が、本件装置ロが本件発明甲の構成要件A'を具備することの妨げにはならない。
(三)(1) 本件装置ロが、本件発明甲の構成要件B'「前記有底円筒形ベース電極の底部中央に、外出下端に電源装置の出力ケーブルを接続する円筒形主電極を絶縁状態で貫植した」の要件を具備するか検討する。
本件装置ロの構成2は、「前記四本のベース電極の各中央に、上端は前記給水管を支持部材として上方からベース電極の軸心方向に沿って下方に真っ直ぐにかつ右給水管以外のものとは絶縁状態にて固定支持され(給水管は電源装置の出力ケーブルと後述する主電極とを結ぶ導電部材でもある)、下端は前記集水槽底面と離間し、かつその離間部には、絶縁部材が主電極との間に若干の間隔をもって配設され、かつその間隔は調節ネジによって調節自在とされた四本の円筒形主電極(前記四本の有底円筒形ベース電極及び右四本の円筒形主電極のうち、対応する一対は予備として用いられる)と、」というものである。
(2) 「底」という語は、一般に、「凹んだものや容器の下の所」、「物体の下面、底面」等の意味で用いられることは当裁判所に顕著である。また、「貫植する」という語が、技術用語としてあるいは一般用語として普通に用いられる語であることを認めるに足りる証拠はなく、従ってその一般的な意味を認めることはできない。しかし、「貫」及び「植」という文字の一般的意味を考えると、「貫く」とは、「端から端へ又は表から裏へつき通す。」等の意味を有し、「植える」とは、「その根を土の中に埋める」、「棒状のものを固定して立てる」等の意味で用いられることは当裁判所に顕著であるから、「貫植する」とは、何かをつき通すようにして棒状のものを固定して立てるとの意味と解される。また、「外出下端」とは、「外に出ている下の端」という意味と解することができる。これらの各語の意味によれば、文言上、構成要件B'における円筒形主電極は、有底円筒形ベース電極の下面をつき通すようにして固定して立てられており、その下の端が有底円筒形ベース電極の下面から外に出ており、その外に出ている下の端に電源装置の出力ケーブルを接続する構造となっているものであると認められる。
さらに、本件特許権甲の特許請求の範囲には、「水を流入排出しつつ内部に所定の水を貯留する有底円筒形ベース電極の底部中央に、外出下端に電源装置の出力ケーブルを接続する円筒形主電極を絶縁状態で貫植した水抵抗器」と記載されているところ、「水を流入排出しつつ内部に所定の水を貯留する有底円筒形ベース電極」との記載からすれば、円筒形ベース電極は、所定の水を貯留するため有底でなければならないものであり、このような技術的観点から見ても、「底部」とは、円筒形ベース電極の下面を意味するものと解される。
そして、本件発明甲の明細書の発明の詳細な説明の項には、実施例の説明として、「本発明の負荷装置システムAを構成する水抵抗器Bは壁側中間部位に給水孔1を又底部に排水孔2を穿設して内部に所定量の水を貯蔵する有底円筒形のベース電極3と当該ベース電極3の底部中央に固定した碍子4を貫通して立設しその下端に電源装置の出力ケーブル5を接続する円筒形の主電極6と……絶縁鞘筒7とからなる」(4欄二〇行から二四行まで)と記載されており、説明に対応する第1図ないし第4図では、前記排水孔及び碍子はベース電極の下面に設けられているものとして表示されている。右実施例の記載及び図面には、「底部」、「底部中央」として、ベース電極の下面、下面の中央を指すものは記載されているが、これ以外のベース電極の上面、上面の中央を指すことの記載はない。
以上の諸点によれば、本件発明甲において、円筒形主電極は、有底円筒形ベース電極の下の面の中央をつき通して固定して立てられており、その下の端が有底円筒形ベース電極の下の面から外に出ており、その外に出た下の端に電源装置の出力ケーブルを接続する構造となっているものであると認められる。
(3) 本件装置ロの円筒形主電極は、それが、円筒形主電極であること、その端部が電源装置の出力ケーブルと直接又は導電部材を介して接続していること、円筒形主電極が有底円筒形ベース電極の中央に固定されていることにおいては、本件発明甲の円筒形主電極に相当するものであるけれども、前記のとおり、その下端が円筒形ベース電極の下部を構成する集水槽底面と離間しているものであり、したがって、円筒形ベース電極の下面と接触していないし、下面を貫いてもおらず、したがって、その下端が円筒形ベース電極の下面から外に出ていないものであるから、本件装置ロは、構成要件B'を充足しない。
(四) 本件装置ロが本件発明甲の構成要件C'を具備するか否か検討する。
本件装置ロの構成1、2、3及び右(二)、(三)に判断したところによれば、本件装置ロは、本件発明甲の構成要件A'に相当する有底円筒形ベース電極と本件発明甲の構成要件B'の構成を全て充足するわけではないが、有底円筒形ベース電極の中央に固定され、端部が直接に又は導電部材を介して電源装置の出力ケーブルと接続する円筒形主電極とから構成される水抵抗器であると認められるから、円筒形主電極が構成要件B'を充足しない点を除く、その余の構成要件C'は充足するものと認められる。
本件装置ロは、昇降自在に吊設された絶縁鞘筒を具備しているが、この絶縁鞘筒を具備することが本件発明甲の有底円筒形ベース電極と円筒形主電極からなる水抵抗器に該当することの支障となるものではないことは前記二3に判断したとおりである。
本件装置ロは、有底円筒形ベース電極と円筒形主電極と絶縁鞘筒の組合わせからなるものを四本具備しているが、その内一本は予備であるから単なる付加に過ぎないし、残りの三本で一つの水抵抗器を構成することが、本件装置イとの対比の関係での構成要件A(本件装置ロとの対比の関係での構成要件A’、B’、C’に相当する。)を充足することの妨げになるものでないことは、前記二1に判断したとおりである。
(五) 本件装置ロが本件発明甲の構成要件G'を具備するか検討する。
ガラリとは、幅の狭い板を、一定の傾斜をもたせ間隔をあけて何枚も横に取りつけたもので、通風を維持しつつ、直射日光、雨、見通しを防ぐ目的で、窓や建具に用いられることが多いことは、当裁判所に顕著である。
本件発明甲の明細書の中には、本件発明甲のガラリの構造一般についての説明はないが、第1図ないし第4図に表われた実施例のガラリの縦断面図は、前記のような一般的意味のガラリの構造が示されている。本件発明甲の明細書の発明の詳細な説明の欄には、実施例についての説明として、「ファン10にてラジエター8前面に散出された送風を導き上方空間に散出させるガラリ11」(4欄四三行から5欄一行まで)との記載、「スプレー噴射された水はラジエター8表面でラジエター8内を通過中の温水の熱を奪って蒸発しラジエター8背面から吹き付けられる送風にて送り出されラジエター8前面に配設したガラリ11のガイド板11aに沿って点線の矢印で示すように電極水冷却処理装置Cの上方に吹き上げ拡散する。(中略)ラジエター8の冷却にあたりスプレー噴射された水で蒸発し切れなかったものはガラリ11に付着し自重で落下するため回収水槽12に回収される。」(6欄二四行から三六行まで)との記載がある。右のような本件発明甲の明細書の記載によれば、本件発明甲におけるガラリは、ラジエター表面で蒸発した水蒸気がラジエター背面からの送風により送り出されたものを上方に吹き上げ拡散させる作用と、送風により送り出された水蒸気を含む空気に含まれるスプレー噴射された水で蒸発し切れなかったものをガラリのガイド板に衝突、付着させ、自重で落下させ回収水槽に回収する作用をし、水の飛散損失を小さく抑える効果に寄与しているものと認められる。
本件装置ロの水受フードは、ファンの送風方向に平行な縦断面の形状が、下方から上方に向かって拡がるように壁面が傾斜し、上部が開口し、下方に回収水槽が配設されているもので、ファンの送風によってスプレー管から噴射された霧やラジエター表面で蒸発した水蒸気が周囲に飛散するのを防ぐものとされている。したがって、下方から上方に拡がるように傾斜した壁面は、本件発明甲のガラリのガイド板と同じく、ラジエターの背面からの送風により送り出された水蒸気を含む空気を上方に吹き上げ拡散させる作用と、送風により送り出された空気に含まれるスプレー噴射された水で蒸発し切れなかったものを衝突、付着させ自重で落下させ回収水槽に回収する作用を行っているもので、ガラリのガイド板が幅広く一枚になったものとも解され、本件装置ロの水受フードは本件発明甲のガラリと実質的に同じものということができ、本件装置ロは、本件発明甲の構成要件G'を充足する。
(六) よって、本件装置ロは、本件発明甲の構成要件A'、D'ないしI'を文言上充足するが、構成要件B'、C'を文言上充足しない。
2(一) 原告は、仮に、本件装置ロが本件発明甲の構成要件B'を充足しないものであっても、本件装置ロが本件発明甲と均等である旨主張するので、この点について判断する。
(二) 特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品(以下「対象製品」という。)と異なる部分が存する場合であっても、①右部分が特許発明の本質的部分ではなく、②右部分を対象製品におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、③右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有するもの(以下「当業者」という。)が、対象製品の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、④対象製品が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、⑤対象製品が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、右対象製品は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁判所平成一〇年二月二四日判決(民集五二巻一号一一三頁)参照)。
特許発明の構成と対象製品の対応する部分が異なっていても、右のような要件を具備する場合に、対象製品が特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして特許請求の範囲に属するものとするのは、例えば、物の譲渡、代物弁済予約という所有権移転契約(予約)の形式をとっているものの実質が担保である場合には、法的にも譲渡担保、仮登記担保等の担保として扱い、婚姻の届出は欠く点で形式的には婚姻の要件を具備しないが、それ以外は夫婦としての実質を具備した男女の関係を内縁として婚姻に準ずる法的保護を与えること等に表われる、法の形式的適用から生ずる不公正を是正するための、法の実質主義とでもいうべきものに根拠を置くものと解すべきである。即ち、特許発明の特許請求の範囲に記載された構成と対象製品の対応する部分が特許発明の本質的部分でない所で一部異なっていても、技術的に同じ作用効果を奏し同じ目的を達成する実質的に同じ技術で、かつ、特許請求の範囲の記載を当業者が技術的知識をもって読めば、対象製品の当該構成を採用しても同じ作用効果を奏することが容易に理解できるという意味で、実質的には特許請求の範囲として記載されているといえるものを、特許請求の範囲に記載された特許発明と実質的に同じものと法的に評価して、特許発明の技術的範囲に属すると認めるものである。もっとも④及び⑤の要件を欠くものは、法の予定した形式を具備しないものを実質に着目して、形式を具備するものと同じ法的評価を行うのが適切でないものとして除外されるのである。対象製品が特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであるという規範的評価と右①ないし⑤の各事実とのいわゆる要件事実論的な説明はさておき、事柄の性質上実質的同一にかかわる右①ないし③の事実の証明責任は、均等を主張するものが負担し、適用除外事由にかかわる④及び⑤の事実の証明責任は、均等を否定する者が負担するものと解するのが相当であるから、まず、右②及び③の要件について検討する。
(三) 右②の点について
(1) 右②の点が均等と認定するための要件とされるのは、特許発明の本質的部分でない構成を対象製品におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ同一の作用効果を奏するものであれば、技術的には対象製品は特許発明の実施品と実質的に同じと評価できるからであり、逆に②の要件を具備しないものは特許発明の実施品と評価する余地がないことによるものと解される。
(2) 前記のとおり、本件発明甲の構成要件B'における円筒形主電極は、有底円筒形ベース電極の下の面の中央をつき通して固定して立てられており、その下端が有底円筒形ベース電極の下面から外に出ており、その外に出ている下の端に電源装置の出力ケーブルを接続する構造となっているものであると認められる。
他方、本件装置ロのこれに対応する構成は、ベース電極の中央に円筒形主電極が、その上端が上方の給水管を支持部材としてベース電極の軸心方向に沿って下方に真っ直ぐに固定支持されるとともに、右給水管が、円筒形主電極と電源装置の出力ケーブルとを結ぶ導電部材を兼ねる構造のもので、円筒形主電極の下端は円筒形ベース電極の下部を構成する集水槽底面と離間し、かつその離間部に絶縁部材を配設しているものであり、したがって、円筒形ベース電極の下面と接触していないものである。
(3) 右(2)の本件発明甲の構成要件B'と本件装置ロのこれに対応する構成との相違を考慮しても、本件装置ロの水抵抗器部分は、前記一2に認定した本件発明甲の明細書に記載され、実際に奏するものと認められる抵抗器の部分の効果と同じ効果を奏するものと認められ、また、本件装置ロの電極水冷却処理装置部分は、本件発明甲の電極水冷却装置についての構成要件をすべて具備することは前記1に認定したとおりであるから、本件発明甲の電極水冷却処理装置の部分の効果と同じ効果を奏するものと認められる。
したがって、本件装置ロは、本件発明甲の構成要件B'が本件装置ロのこれに対応する構成に置き換えられているけれども、本件発明甲と同じ効果を奏し、同じ目的を達成することができるものである。
よって、本件装置ロが本件発明甲の構成と均等であるための要件②は充足するものと認められる。
(四) 右③の点について
(1) 右③の点が均等認定の要件とされるのは、特許権の効力の及ぶ客観的範囲は明細書の特許請求の範囲の記載に基いて定められるべきものであるところ、特許請求の範囲に記載された構成を対象製品が具備しない場合であっても、特許請求の範囲を当業者が技術的知識をもって読めば、対象製品の当該構成を採用しても特許発明と同じ作用効果を奏し、目的を達成することが容易に想到できれば、実質的に、対象製品の対応する構成が、特許請求の範囲に記載されているものと認められるからである。
したがって、その想到の容易さの程度は、特許法二九条二項所定の、公知の発明に基づいて「容易に発明をすることができた」という場合とは異なり、当業者であれば誰もが、特許請求の範囲に明記されているのと同じように認識できる程度の容易さと解すべきである。
(2) 本件装置ロにおいては、外面が絶縁被覆された給水管が主電極の支持部材であるとともに、主電極と電源装置の出力ケーブルとを結ぶ導電部材を兼ねる構造となっているところ、三本の主電極とこれを支持する給水管には、電源装置の出力ケーブルから電流(三相交流)が流れているのであり、給水管と分水槽は絶縁チューブを介して絶縁されているとはいえ、分水槽から絶縁チューブを経て給水管を通りベース電極内へ流れる水は電気をある程度通すから、結局分水槽を介してこれと電気的に接続する装置全体の部材に電流が流れる危険性が考えられるので、当業者は通常このような構成を避けるものと推認され、これに反する証拠はない。他に本件発明甲の特許請求の範囲を読んだ当業者が、構成要件B'の構成にかえて本件装置ロの構成を採用しても本件発明甲と同じ作用効果を奏し目的を達成することを容易に認識するものと認めるに足りる証拠はない。
したがって、本件発明甲の構成を右のように置き換えることに当業者が本件装置ロの製造時点において容易に想到することができたものとは認められない。
(3) 原告は、英国特許明細書(甲第四三号証)を引用するなどして、右置き換えは、当業者であれば容易に想到できるものである旨主張する。
特許発明と対象製品が均等か否かの判断は、対象製品の具体的な構成について行うべきものであって、対象製品の構成を抽象した上位概念について行うべきではない。
本件装置ロについては、円筒形主電極が上方で支持、固定されていると抽象して均等の判断をするのではなく、具体的な給水管が主電極の支持部材であると共に主電極と電源装置の出力ケーブルとを結ぶ導電部材を兼ねる構成について均等の判断をすべきものである。
原告の指摘する前記英国明細書には、本件装置ロにおける、給水管が主電極の支持部材及び導電部材を兼ねる構造が示されているとは認められないから、原告の主張は採用できない。
(五) よって、その余の点について判断するまでもなく、本件装置ロが本件発明甲と均等である旨の原告の主張は理由がない。
四 請求原因7(本件発明乙と本件装置ロの対比)について
1(一) 本件装置ロの構成1によれば、本件装置ロの水抵抗器は、本件発明乙の構成要件aを充足するものと認められ、本件装置ロの構成3によれば、本件装置ロの水抵抗器は、本件発明乙の構成要件cを充足するものと認められる。したがって、本件装置ロの水抵抗器は本件発明乙の構成要件dの内、構成要件bを充足する主電極を有するか否かの点を除いた部分も充足する。
(二)(1) 本件装置ロが、本件発明乙の構成要件b「ベース電極の底部中央に貫着した絶縁体を貫通して立設しその外出下端に電源装置の出力ケーブルを接続する円筒形の主電極」の要件を具備するか検討する。
(2) 前記三1(三)(2)のとおりの「有底」、「底部中央」との語に含まれる「底」という語の一般的意味、「外出下端」という語の意味として解される意味によれば、文言上、構成要件bにおける円筒形主電極は、有底円筒形ベース電極の下面を貫いて装着した絶縁体を貫き通して立てられており、その下端が有底円筒形ベース電極の下面から外に出ており、その外出下端に電源装置の出力ケーブルを接続する構造となっているものであると解することができる。
本件特許権乙の特許請求の範囲には、「給水孔と排水孔を開口した内部に所定量の水を貯蔵する有底円筒形のベース電極と、当該ベース電極の底部中央に貫着した絶縁体を貫通して立設しその外出下端に電源装置の出力ケーブルを接続する円筒形の主電極と、……絶縁鞘筒とからなる水抵抗器」と記載されているところ、「内部に所定量の水を貯留する有底円筒形のベース電極」との記載からすれば、円筒形ベース電極は、所定の水を貯留するため有底でなければならないものであり、このような技術的観点からも、「底部」とは、円筒形ベース電極の下面を意味するものと解される。
そして、本件発明乙の明細書の発明の詳細な説明の項には、実施例の説明として、「本発明の水抵抗器Aは壁側中間部位に給水孔1を又底部に排水孔2を穿設して内部に所定量の水を貯蔵する有底円筒形のベース電極3の底部中央に貫着した絶縁体たる碍子4を貫通して立設しその下端に発電機の出力ケーブル5を接続する円筒形の主電極6と……絶縁鞘筒7とからなる」(3欄三三行から三九行まで)と記載されており、説明に対応する第1図ないし第4図では、前記排水孔及び碍子はベース電極の下面に設けられているものとして表示されている。右実施例の記載及び図面には、特許請求の範囲に記載されている「底部(中央)」として、ベース電極の下面(の中央)を指すものは記載されているが、これ以外のベース電極の上面の中央を指すことの記載はない。
以上の諸点によれば、本件発明乙において、円筒形の主電極は、有底円筒形ベース電極の下の面の中央を貫いて装着した絶縁体を貫き通して立てられており、その下の端が有底円筒形のベース電極の下面から外に出ており、その外に出た下の端に電源装置の出力ケーブルを接続する構造となっているものであると解すべきである。
(3) 本件装置ロの円筒形主電極は、それが円筒形の主電極であること、その端部が電源装置の出力ケーブルと直接又は導電部材を介して接続していること、円筒形主電極が有底円筒形ベース電極の中央に固定されていることにおいては、本件発明乙の円筒形の主電極に相当するものであるけれども、前記のとおり、その下端が円筒形ベース電極の下面を構成する集水槽底面と離間しているものであり、したがって、その下端が有底円筒形ベース電極の下面から外に出ているものではないし、有底円筒形ベース電極の下面を貫いて装着した絶縁体を貫き通して立てられたものでもないから、本件装置ロは、構成要件bを充足しない。
(三) よって、本件装置ロは、本件発明乙の構成要件a、cを充足するが、構成要件b、dを文言上充足しない。
2(一) 原告は、仮に、本件装置ロが本件発明乙の構成要件bを充足しないものであっても、本件装置ロが本件発明乙と均等である旨主張するので、この点について判断する。
(二) 前記均等の要件②、③について検討する。
前記のとおり、本件発明乙の構成要件bにおける円筒形の主電極は、有底円筒形のベース電極の下の面の中央を貫いて装着した絶縁体を貫き通して立てられており、その下の端が有底円筒形のベース電極の下面から外に出ており、その外に出た下の端に電源装置の出力ケーブルを接続する構造となっているものと解すべきである。
他方、前記のとおり、本件装置ロのこれに対応する構成は、円筒形主電極の下端が円筒形ベース電極の下部を構成する集水槽底面と離間し、かつその離間部に絶縁部材を配設されているものであり、したがって、円筒形ベース電極の下面と接触していないものであり、また、給水管が上方から主電極の上端をベース電極の軸心方向に沿って真っ直ぐに支持する支持部材を兼ねるとともに、右給水管が、円筒形主電極と電源装置の出力ケーブルとを結ぶ導電部材を兼ねる構成のものであるところ、本件発明乙の構成要件bと本件装置のこれに対応する構成との相違点を考慮しても、本件装置ロの水抵抗器部分は前記一2に認定した本件発明乙の明細書に記載された効果と同じ効果を奏し、同じ目的を達成するものと認められる。
よって、本件装置ロが本件発明乙の構成と均等であるための要件②は充足するものと認められる。
しかしながら、前記三2(四)と同様の理由(ただし、本件発明甲とあるのを本件発明乙と、構成要件Bとあるのを構成要件bと読み替える。)により、本件発明乙の構成を右のように置き換えることに当業者が本件装置ロの製造時点において容易に想到することができたものとは認められない。
(三) よって、その余の点について判断するまでもなく、本件装置ロが本件発明乙と均等である旨の原告の主張は理由がない。
五 差止請求について
以上のとおり、本件装置イは、本件発明甲の技術的範囲に含まれるが、本件装置ロは、本件発明甲、乙のいずれの技術的範囲にも含まれないものである。
そして、被告が現在本件装置イを製造、使用していることを認めるに足りる証拠はないが、被告が現在製造、使用している本件装置ロも負荷装置システムである点は本件装置イと共通であること、被告はかつて本件装置イを製造、使用したことがあり、本件装置イが本件発明甲の技術的範囲に含まれることを争っていることを考慮すると、被告が今後とも本件装置イを製造、使用するおそれがあると認められる。
よって、本件装置イの製造、使用の差止を求める部分は理由がある。
また、本件装置ロの製造、使用の差止請求は理由がない。
六 請求原因8(損害)について
被告の本件特許権甲の侵害行為は過失によるものと推定されるから、被告は、本件装置イの使用によって原告が被った損害を賠償する責任を負うものである。
1 被告が昭和六三年一〇月一四日ころから平成二年二月ころまでの約一七ヶ月間、本件装置イを使用して発電設備の負荷試験業務を請け負ったことは、当事者間に争いがない。
2 右期間における右装置の使用回数については、被告が七回使用したことの限度で当事者間に争いがない。原告は、被告が少なくとも右装置を三四回は使用した旨主張するが、右七回の外に被告が右装置を使用したことを認めるに足りる証拠はない。
原告は、被告が使用を自認する以外にも右装置を使用したことは、右装置を被告が密かに製造していた経緯、被告から提出された証拠の不自然性等の事情から明らかである旨主張する。
しかし、本件の審理においては、被告が現在所持しているものとする見積書、発注書については証拠として未提出のものを含め原告代理人、補佐人に開示しているものであり、この結果に基づき、原告が指摘する疑問点(甲第六一号証)についても、被告から一応首肯できる反論がされている(乙第二七五号証)。これに加えて被告が見積書として提出済みの書証の態様等諸般の事情を考慮すると、本件全証拠によっても、既に被告が右装置を使用したことを自認する右七回の使用の外に、被告が右装置を使用して負荷試験工事を行ったことを認めるに足りない。
3 前記七回の使用のうち、一回の使用日数は一日であり、その余は二日であることは、当事者間に争いがない。
成立に争いのない甲第五号証の一(書き込み部分を除く。)によれば、本件装置イを使用した負荷試験の使用料は、少なくとも、二日間で三五万円、一日間で二二万円であると認められる。これに対し、被告は、実際には右使用料の二割以上の割引を行っている旨主張し、甲第二九号証の「値引して(0.8掛……)」との記載を援用する。しかし、甲第二九号証は右装置を使用した負荷試験について作成された物ではないから、これのみをもって右装置の使用の際にも使用料の割引がされたことを認めるに足りず、他に被告の主張を認めるに足りる証拠はない。
特許法一〇二条一項所定の「侵害の行為により利益を受けているとき」における「利益」とは、特許権者が現実に特許権を実施しており、かつ、設備投資や従業員の雇用を新たに必要としない状態で製造、実施等が可能な範囲内では、侵害行為者の製品の売上額からその製造、実施等のための変動経費のみを控除した額をいうものと解するのが相当である。前記七回程度の使用回数であれば、原告は、設備投資や従業員の雇用を新たに必要としない状態で、特許権の実施が可能であったものと認められる。そして、被告が主張する減価償却費は、右変動経費には当たらないものというべきであるし、被告が主張する人件費が右変動経費に当たることを認めるに足りる証拠はなく(原告においても被告においても、右装置を使用する毎にそのための従業員を個別に雇っていた等の事情は認められない。)、その他の変動経費の具体的存在及びその額を認めるに足りる証拠はないが、本件装置イを積載した自動車の燃料代等の変動経費を要することは裁判所に顕著であるので、一日当たり二万円を変動経費として控除すべきものと認める。
したがって、前記七回の使用により被告が得た利益は、二三二万円から二六万円を控除した二〇六万円であると認められるから、これを原告の損害額と推定する。
七 結論
以上によれば、原告の本件請求は、本件装置イの製造、使用の差止め、並びに損害金二〇六万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成三年八月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条本文を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官八木貴美子 裁判官沖中康人 裁判長裁判官西田美昭は、転補のため署名押印できない。裁判官八木貴美子)
別紙物件目録(一)・(二)<省略>